10月の初旬に林道の復旧工事のために2年間通行止めになっていた玄倉からユーシン渓谷に向かう玄倉林道が歩行者に限って通行できるようなったと聞いた。
丹沢山塊を地図で見るとひらがなの「つ」の字に山稜が連なっているのだが、その「つ」の内側を東西に貫く谷がユーシン渓谷だ。ユーシン渓谷は山稜の中央を7キロに渡って悠々と流れているので、丹沢の主だった山のほとんどどこからでも見ることができる。上から見ると渓谷には白い河原が広がり美しく、一度、降りてみたいと思っていた。
7時20分 新松田駅を西丹沢自然教室行きのバスに乗り8時過ぎに丹沢湖畔の玄倉バス停に着く。まだまだ紅葉シーズン。バスは満員電車並みの混雑だった。
8時26分 準備を済ませ歩き始める。丹沢湖に玄倉川から澄みきった水が流れ込んでいる。丹沢に源を持つ川は本当にどこも水質が素晴らしい。
その玄倉川を左に見ながら林道を歩く。次第に山深くなっていくが紅葉も期待していた程ではなく、道も何の変哲のない林道で正直あまり面白くない。
隧道をひとつ、ふたつと通り過ぎると真新しい立派な隧道が現れる。この隧道の区間が数年前に崩壊し、新らしく隧道を造っていたために長らく通行止めになっていたらしい。事前に情報は得ていたのだが中は本当に真っ暗だった。ヘッドライトを装着する。長さ330メートル程の隧道は途中で左に曲がり、さらに右に少し曲がっているようなので先の光が全く入り込んでこない。
9時48分 玄倉ダムに到着。ダムの湖水が澄んでいる。もう10年以上前になるだろうか、突然の豪雨でこのダムが放水、下流の河原でキャンプをしていた家族連れが流された悲しい事故を思い出す。
八つ目の隧道を過ぎしばらく歩くと左の川に下る道がある。ユーシンロッジへの分岐だ。
10時29分 きれいに枝打ちされた杉林を抜けるとユーシンロッジが現れる。写真では何度も見たことがあるが本当に立派な建物だ。裏手に回ると勝手口があり鍵はかかっておらず入れるようで、実際、入っている人もいた。今は休業中なのだが通行止めだった隧道が完成したので営業再開も近いのだろうか。分岐点に戻り玄倉林道をさらに奥へ進む。
11時08分 熊木沢出合。予定ではここから蛭ヶ岳方面へ進み、棚沢ノ頭に登ろうと思っていたのだが、何やら河原手前の広場に車がたくさん止まっている。降りて行ってみると猟友会がこの一帯で猟をしているようだった。その先の山では獣を追い掛け回す犬の鳴き声が忙しなく響いている。
警備をしてるらしい方に、この先の登山道は通れるか聞いてみると、できれば通ってほしくないようだった。なら仕方ないとあっさりそのルートは諦め、別のルートに向かおうとすると気を使ってくれたのか「もし行くなら無線で連絡しますので、ゆっくりだったら大丈夫です。」と言われた。
無線で猟師に伝わったとしても、山中で吠えている猟犬にそれが伝わるでもなく、第一「ゆっくり」じゃなかったら散弾銃で撃たれるかも知れないのか?快く遠慮させてもらった。
予定を変更して熊木沢出合から尊仏ノ土平に向かい塔ノ岳に登ることにした。
熊木沢出合から先の道は荒れに荒れていた。林道は土砂崩れで至るところで封鎖されており、また崩壊していた。崩壊現場を見上げるとそう古くなさそうでいつ壊れてきてもおかしくない感じだった。
11時41分 尊仏ノ土平。標識が土砂で埋まっているのを誰かがちょっとだけ掘り起こしてあって辛うじて見える。地図だとここから河原を渡って塔ノ岳の尾根に取り付くことになっているが、その標識の塔ノ岳への矢印はまだ、先に進むようになっている。
ちょっと進むが次の標識がない。どう地図を見てもこの沢をずっと登って行くのではないことは明らかなのだが。コンパスを見るとやはり西に向かわなければならない。やはりここで河原を渡るのが正解だと思った。
標識が埋まっていたりすると土砂の影響で標識の方向が変わったのではないかなど、判断する要素に不信を抱くようになり、また自分が思ってる方向とコンパスがあまりにも異なると一層不安が増し、コンパスでさえ合っているのかなと思えてくる。こうして色々な判断材料への不信から道に迷うこともあるのだろうと思った。きちんとした知識とコンパスワークなどはしっかりと身に付けておくべきだと改めて感じた。
河原を渡ると登山道の標識があり塔ノ岳へ取り付くことができた。それでも踏み跡が薄いので階段などが現れると安心した。地図上ではもうこの尾根を上へ上へ登って行けば間違うことはないのだが。
傾斜もきつく頂上付近まで整備されてない登山道が続き、ユーシン側から登る塔ノ岳は、表尾根から登る塔ノ岳より格段にきつかった。また頂上まで一人の登山者とも出会わなかった。
13時00分 塔ノ岳着。この季節らしく塔ノ岳は老若男女で賑わっている。山頂は太陽が陰り、時折、強い西風が吹き通してとても寒かった。暖かいラーメンを食べ、持ってきた500mlのワインをサラミを肴にゆっくり飲んだ。1時間ほど休憩を取り、2時過ぎ、いつもの大倉尾根を降りた。