2017年11月27日(月)17:39

夏に北アルプスで知り合った仲間と新雪が積もった八ヶ岳をまったり歩く HOT

金曜日の夜に電車で茅野市までアクセス、そこで格安レンタカーを借りスーパーによって食料と酒を買い込み、30~40分ほど運転すると八ヶ岳の主要な登山口 美濃戸口へ到着する。そして車中泊、または、登山口にある八ヶ岳山荘の仮眠室(2000円で泊まれる)に泊まって翌朝から登るというのが八ヶ岳に登るときによく使う方法だ。少し時間に余裕があるときは、レンタカーではなく茅野から美濃戸口までの最終便の路線バスを利用することもある。

 

これならコースタイムが9時間くらいかかる赤岳往復でも朝、5時とかに出れば十分に時間がある。僕みたいに長距離、車を運転するのが嫌いな人には持って来いの方法だと思う。正直、日曜の中央高速の帰りは悲惨だ。疲れている身に追い打ちをかけるような「この先、渋滞20キロ」のような標識は見るのもイヤだ。進まない高速で、時間だけはふんだんにあるにも関わらず、もちろん酒を飲みながら車を運転できる訳でもなく、話し相手がいる訳でもなく、ただただ眠い眼をこすりながらノロノロ運転を続ける我慢の時間だ。山を登る時のMっ気はあるが、渋滞の高速道路では、とても、その威力を発揮することはできない。

 

それに比べて、電車は楽だ。渋滞がないばかりか必ず定時に到着する。これだけでももう十分に大きなメリットなのだけど、電車内では酒を飲むこともできる。ただ暗黙のルールのようなものがあって中央線も高尾山口駅までは、何か観光路線のような座席で酒を飲んでもいいような雰囲気があるのだが、八王子に着いた瞬間から、ちょっとシャキッとして「僕はお酒を飲んでいません。なお酔ってなんていません。」みたいな顔をしなければならない。

 

登山口にある八ケ岳山荘は、ありがたい山荘で1階の談話室が24時間開放されている。着くなり、そこで晩ご飯を食べ始める。しばらくすると仮眠室に泊まっているらしい一人の男性がウィスキーを片手に下りてきた。酒の仲間がほしかった僕は「待ってました」とばかりに話しかけ、ふたりで山の話をつらつらと話しながら飲んだ。千葉から来たというKさんは若いころにネパールをふらふらと旅して回っていた経験もあるそうで、色々と話をしていてとても面白かった。

 

たまに話をするとすぐに仕事のことを話し始める輩がいるが、そういう人の話はまず面白くない。そういう人に限ってなぜか人の素性をとても知りたがる。相手がどんな仕事をしているとか、何歳だとか…それらがきっとその人にとってはなくてはならない話の基準になる事柄なのだろう。そんな些細なことは山では放っておきたいものだ。

いつか北アルプスの最奥 黒部五郎小舎で知り合った公務員を名乗る男性が、酒を飲むと自分の仕事について、あれやこれやと話し始め、さらには僕の仕事についてもあれこれ聞いてきた。「この人は仕事以外に話のネタを持ち合わせていないのだろうか?こんなアルプスの真中でさえも...」相手にするのがほとほと面倒な人間だった。まぁこちらも気のいいふりをした大人なので、どんな輩の話でも笑いながら聞くふりはするが、そんなまずい酒は山では飲みたくない。

 

ワインボトルを1本空け、12時頃に寝る。

 

その割には、翌朝6時過ぎには、すっきりと目覚めた。今日の登山は独りではない。一人じゃないばかりか女子がいる。酔っぱらってむくんだ顔で、寝ぼけ眼、寝癖のついた頭という訳にはいかない。

 

今回の山行は、今年の夏に北アルプス縦走中に知り合った女子2人組のS嬢とT嬢、そして、その時に最初の2日間、僕と一緒に歩いてくれた山仲間のK君と、4人で一緒に山を歩こうということで企画した山行だ。そう、だから全くガツガツ登るつもりはない。ただ、残念ながら女子のひとりT嬢が仕事でこれなくなってしまった。彼女は、僕たちが今、山に登ろうとしている茅野に住んでいるにも関わらずだ... 

 

7時半過ぎ、八ヶ岳山荘の談話室で朝食を頬張りながらパッキングをしているとK君から今、到着したというメッセージが届く。談話室を出て一段下にある駐車場に目をやるとK君とS嬢が一緒にこちらに向かってやってくる。どうやら二人は互いに松本市に住んでいるという事で、前もって予定を合わせて一台の車に乗ってきたということのようだった。歩いてくる二人の姿を見ていると山に登る趣味を共有したさわやかなカップルのように見えた。8月の終わり以来、久しぶりに会ったS嬢の覚えのある顔を見て、どこか何だか懐かしい気持ちがした。相変わらず笑顔がとても素敵な女性だ。好きなように歩ける単独の山もいい。だけど、こういう登山もまた、本当にいいもんだと最近つくづく思うようになった。人が恋しいのだろうか?

 

美濃戸口から林道を歩き始める。雪はないものの道は所々凍っていて油断すると滑って転びそうになる。雪は少しずつ増え、美濃戸で1~2センチ程にあり、北沢をさらに進み堰堤あたりで3~4センチ。そこから本格的な登山道に入りしばらく進むと一気に雪量が増え、まだ11月というのに厳冬期と変わらないモフモフの雪が降り積もっていた。今年最初の雪山。雪を踏みしめて歩く感触が楽しい。夏山には夏山の良さがあるが、冬山もやっぱり楽しい。

 

夏山はやるけど、冬山はちょっとという人が結構いる。確かに気象条件などは夏に比べて圧倒的に厳しいし、雪山で遭難、死亡したというニュースが大きく取り上げられるから、何かとても怖いイメージがあるように思われているが、寒さ対策などの装備さえしっかりして、人気の多い山に、トレースがある土日に登り、稜線上にさえは出なければ、さして難しいことなどは全くない。むしろ、ゴツゴツした夏道が雪で埋もれて平坦で歩き易く、場合によってはコースタイムが夏より早いなんてこともざらにある。特に八ヶ岳は、通年で営業している山小屋も多く安全で、ただただ雪の降り積もった森の中を歩いているだけで十分に満喫できる。そして、次第に雪山に慣れてきたら装備を揃えて稜線を目指せばいい。ただ、雪山は夏に比べて圧倒的に装備に金が掛かる。そこだけは、残念ながら経験や知識、筋力などではどうしてもカバーすることはできない大きな問題だ。

 

新雪が降り積もった雪を踏みしめながら11時過ぎ赤岳鉱泉に到着する。30~40センチは雪が積もっている。ここ赤岳鉱泉が今日の目的地だ。ただ、到着が案外早く時間に余裕があるので硫黄岳方面にもう少しだけ登ってみることにする。途中出会う下山してくる人の話だと、やはり稜線上はものすごい強風が吹き荒れる吹雪のようだ。岩場も多く、ちょっと今回の僕たちの装備では稜線上は無理だが、せめて森林限界までは行ってみようということで進む。

 

久しぶりに装着した12本爪のクランポンの重さに苦しむ。今日、履いているケイランドの靴は新調したばかりで、今回は実践での試し履きの山行でもある。実はこの靴、海外サイトで、日本で売っている、この靴にそっくりな靴を試し履きしてみて購入したので、ちゃんとサイズが合うのか、足にちゃんとフィットするのかちょっと心配したのだが、履き心地としては悪くはないので安心した。若干、違和感がないことはないが、そこは少しずつフィットしていくだろう。ただ前に履いていた靴よりもかなり堅牢な造りなので片足約100グラムずつくらい重い。たった100グラムだが長い距離をクランポンをつけて歩くと、途中から果てしなく重く感じるようになった。ただ、これだけは仕方がない。腿筋あたりを鍛えて行くしかない。もっともっと山に行かないと!

 

思えば、登山靴選びと恋愛はつくづく似ているように思う。本来は、どれくらい自分の足にフィットしているかが最も重要な事柄なのだが、ただ、それだけでは決まらない。やっぱり好きなメーカーもある、デザインもある、カラーも大切だし、全般的な評価も気になる。あまり皆が履いているのは避けたいし、だからと言って、誰も履いてないようなとがったやつは今度は心配になる。

そんな中から「これかな?」というのをいくつか履いてみて、時間の許す限り店舗内をぐるぐると歩き回り履き心地を確かめる。必ずしも完璧に足にフィットしている登山靴なんてそうそうはないので、ある程度の妥協はどうしても必要になってくる。そして、それらを様々な角度から比べてみた結果として「たぶん、これだろう」という一足を選んで購入する。あまり選択肢が多いとその場ですぐには選びきれない場合もある。選択肢が多いということは人を優柔不断にさせる。

 さて、その一足を履いて山に行く。終日、歩いて大して問題がなければそれでいい。そうではない場合、さてどうするかだ。色々頑張ってみる。ソールを変更してみたり、ソックスの厚さを変えてみたり。決して安くはない登山靴、すぐに買いかえるという訳にはいかない。色々と努力をしてみる。そして、ちょっとした違和感は感じながらも何度も山に履いて行くうちに不思議と自分の足にフィットしてくることもある。また、一方、その違和感はとてつもなく大きくなっていき、遂にはその一足とはおさらばして、新しい別の一足に買いかえなければならなくなってしまう場合もある。

 なんだ全く恋愛のプロセスと同じではないか?

 

赤岩ノ頭の40~50メートル下の森林限界辺りまで来ると視界が開け、見える稜線付近は厳しいコンディションなのがよくわかった。途中で出会う人の数からしてもあまり多くの人が稜線まで上がってはいないようだった。しばらくの間、流れゆく雲を見ていると、時々、それが一気に流れ去り稜線に青空が広がる。木々を覆った真白な霧氷と青い空との対比が美しい。赤岳鉱泉から上の登山道はより一層、雪が深く美しい景色を堪能できた。本格的な雪山が初めてだったふたりも、素晴らしい雪山の景色を楽しんでくれているようだった。

 

13時半過ぎ、赤岳鉱泉に戻って昼食にする。ビールと小屋の軽食メニューからカレーをオーダーして靴を脱いで食堂に入る。さすがに小屋内は暖かい。土曜日の山小屋は今日泊まる宿泊者で賑わっていた。既にいい感じに顔が赤くなっている人もいる。一気にまったりした気分になる。寒さから解放され、正直、もうこのまま、ここに泊まってしまいた気持ちになった。

 

カレーを食べビールを飲みながら、今夏の北アルプスの縦走のことなどを思い出しながら話す。楽しい思い出がたくさん蘇ってくる。ただ、忘れてはならない今日は日帰り登山だ。このままビールを飲んで沈没していくわけにはいかない。15時過ぎ、1時間半ほど話したところで下山の準備を始める。登山口まで2時ちょっとは掛かるので、着く頃にはすでにもう暗くなっている時間だ。少し急がねば。

 

下山は下山で、また登りとは違った山の美しさがある。陽ざしの射し加減が朝の勢いのある光とは違って、それが、ちょっと寂しくもあり、心に染み入る景色になる。きっとその時の自分の気持ちと重なりあう部分もあるのだろう。

 

何とか明るい内に下山して、近場の温泉に入り、松本に帰る二人と「また」という言葉で別れた。次の「また」はもう少し余裕のある山行であればいいな。

ルートマップ

ルートデータ

入山日
2017/11/25
下山日
2017/11/25
距離
16.8km
最高点
2600m付近

トレッキングレポート

赤岳鉱泉に近づくにつれて、モフモフの雪が現れてくる。雪山って本当にきれいだ。今回は、北沢経由で赤岳鉱泉に行ったが、歩く人が少ない南沢も良かっただろうな。
4年前に五色ヶ原のテント場で知り合った山仲間のK君と登山道のフカフカの雪を蹴って遊ぶ。楽しい。
今年8月に北アルプス縦走中に知り合ったS嬢と。

今回は、K君とS嬢が、知らない間に写真を隠し撮り(笑)してくれた。ひとりで山に行くことが多いのだが、風景ばかりの写真ではなく、こうやって人が写り込んだ写真があると、何か紀行文にストーリーのような雰囲気が出てきていい。
誰にも踏まれていない雪っ原に走り出してはしゃぐ40半ばのオヤジ。若い頃、中年の人たちがよく「何歳になっても心は二十歳のまま」と言ってるのを聞いて「そんなことあるかっ!」と心の中で突っ込んでいたけど、今になって分かる。中身は全く変わってないし、残念ながら成長すらしていない。

このまま、歳だけは重ねていってしまうのだろうか…
11時過ぎ、赤岳鉱泉到着。見上げる横岳から赤岳の稜線は勢いよく流れる雲に覆われていて見えない。見るからにかなりの風が吹いているようだ。だけど、鉱泉周辺は、それほど寒いという感じではない。

赤岳のアイスクライミングウォール「アイスキャンディ」はまだまだ育成中。
雪の中、持ってきたワインを空け久しぶりの再会に3人で乾杯!まだまだ、余力もあり、時間にも若干余裕があったので、行けるところまでということで硫黄岳に向かう。
赤岳鉱泉から登って行くと、さらに一層雪が深くなっていく。二人は、こんな雪山は初めてということだった。アルプスの麓、松本に住んでいるなんていうと冬は当たり前に数十センチの雪に覆われているようにイメージしてしまうのだが、そんなことはないらしい。
赤岩ノ頭の下50~60メートル、森林限界の上限あたりの展望が少し開けたところで、それ以上、先に行くのをやめる。見上げる硫黄岳の稜線は相当吹雪いているよう。それにしても、まだ11月とは思えない八ヶ岳の風景だ。
あたりの木々の枝は霧氷に覆われている。時折、現れる青い空と真っ白い霧氷との対比がとてもきれいだ。雪山は確かに厳しいが、見える風景は夏山にはない素晴らしさがある。
赤岳鉱泉に向けて下って行く。きつくて下を向いてばかりで歩いている登りでは見れなかった景色が見えてくる。それにしても雪道の下りは、ゴツゴツした岩も全て雪に覆いつくされているので整地された道を歩くように快適だ。

時折、光が差し込むと、雪が反射してさらに真っ白な世界になる。
サンゴ礁のような木々の霧氷。
稜線の雲が流れて一瞬、八ヶ岳の主峰 赤岳の山体が現れる。一同「おーっ!カッコいい!」

ぜひ、この冬のシーズンに、今度は地蔵尾根からあの頂に立ちたいものだ。今冬はできるだけ八ヶ岳に通って、もっと雪山に慣れることができるように頑張ろう。
まだ1ヶ月先だがクリスマスツリーな木々たち。
赤岳鉱泉で昼食を取って1時間半ほど休憩して帰路につく。楽しい話をして、ビールもを飲んで、まったりした気持ちになった暖かい山小屋から再びマイナス気温の外に出るのには勇気がいった。
振り返ると赤岳鉱泉を出る頃には、まだまだ雲に覆われてた横岳の稜線が、冬の午後の弱々しい陽ざしに照らされて、くっきり見えていた。ダイナミックな大同心の岩稜がよく見える。

楽しかった今日の時間はもうすぐ終了だ。ちょっと心寂しい気持ちになる。

いや、今日も楽しい時間をありがとう!

データ

  • 入山日: 2017年11月25日(土)
  • 下山日: 2017年12月25日(月)
  • 登山エリア: 八ヶ岳周辺
  • 登山ジャンル: ハイキング
  • 登山スタイル: 日帰り
  • メンバー: 3人以上
  • 天候: 晴れ。稜線上は強風が吹き荒れる。赤岳鉱泉での気温は-5度程度。
1563