2019年10月01日(火)14:04

久ぶりの北アルプス長期縦走!雲ノ平に行って読売新道を歩いてきた。 HOT

ここ最近、この夏に始めたサーフィンにハマりまくっていて。いや決して山に魅力を感じなくなったという訳ではないのだが、朝起きてウェットスーツをきて自転車にサーフボードを載せて5分で遊び場につき毎日1~2時間だけ楽しむことができるサーフィンに対して、来る週末に行けるかどうか天気予報をずっと眺め、行けるとなったら前もって食材の買い出しをし、前日は忘れ物がないように入念にパッキングして、当日は早朝に起きて、時によっては混雑した特急に立ちっ放しでアクセス、そしてやっと登り始めることができる山がちょっと煩わしくも感じ、何となく雨や台風のせいにして山はお預けにして、すぐに楽しい快感が得られるサーフィンを優先しきった今夏を過ごしてた。実際、この夏は少なくとも40日以上は海に入っていたと思う。

今年も8月上旬以降は台風や雨に見舞われ、当初行こうと思っていた南アルプス南部縦走は静岡駅からの期間運行バスも8月下旬には終了してしまい9月10日を前に今年も昨年に続き長期縦走は無理そうだなと何となく安心したような気持で諦めかけていたところ、突如としてtenki.jpサイトの10日間天気予報に長野県北部に5~6日間の晴れ続きの予報が現れ心が揺さぶられた。

行かなければならない!何かよく分からないのだが本来は楽しむための山のはずが義務感にさいなまれるように「2年続けて山登りにアルプスに行かないなんて...」という気持ちに後押しされて行くことに決定した。

どこに行くか?これも今年はサーフィンに明け暮れていたのでほとんどジョギングなどの足をメインに使ったトレーニングはしてきておらず、その点において長時間重いザックを背負って歩く自信がなく、とにかく楽しむために2年前と同じように北アルプスの沢でフライフィッシングしながらただ好きな雲ノ平でキャンプをすることだけを唯一の目的として、あとは帰りたくなったら2泊とかでもう下山するなど心の趣くままに好き勝手に歩くこととした。

ルートマップ

ルートデータ

入山日
2019/9/13
下山日
2019/9/18
距離
50.6km
最高点
2,986m

トレッキングレポート

DAY1: 9月13日(金)新穂高~わさび平

登山口まで電車利用で行くか高速バスで行くか迷ったが平湯温泉での乗り換え一回で登山口までアクセスできる高速バスで行くことにした。

バス車中でたまたま隣に座っていた最近まで栄養学の教授をしていた方と山のことから話が始まりスポーツ科学やちょっとした身の上話までに展開して長い長いバス路を楽しく過ごすことができた。さすがに栄養学の先生であり山登りにおけるエネルギーや栄養の適切な補給の仕方などを論理的に色々個人レクチャーのように教えてもらった。本当に役に立つような興味深い話が多くこれからの登山に生かしていこうと思ったが、その僕の右手にはしっかりと2本目の缶入ハイボールが握られており、これから山に登ろうとしている人間として、その点においてちょっと後ろめたさを感じながら話を聞いた。

今日の行程は登山口から1時間ちょっと歩くだけのわさび平まで。川に沿うようにある登山道から時折りイワナはいないかと川を覗き込みながら歩いたがイワナの影を見つけることはできなかった。

DAY2: 9月14日(土)わさび平~三俣山荘

無風の夜だった。朝起きるとびっしりとテントが結露していた。テントが濡れると1.2~1.3倍は重くなってしまうので憂鬱になる。今日の三俣山荘までの行程を考えて6時前に出発すればいいと思っていたのだが、他の登山者は早いもので昨夜は15張りほどあったテントはすでに2~3張りになっていた。今夏は足のトレーニングをしていないのでコースタイムでいいのでバテないようにゆっくり歩く。ただ以外にも登りに入ると以外にも18~19kgほどあるザックを軽く感じる。足は鍛えてないが毎日毎日サーフィンをすることに寄ってもしかしたら体幹がかなり鍛えられていたのかも知れない。実際にかなりゆっくり歩いたつもりだったのにコースタイムで4時間掛かる鏡平まで何と2時間半ほどで到着してしまった。

ただ鏡平より先、森林限界を超えてダイレクトに陽があたるようになると暑さに苦しむようになる。9月も中旬という時期なのにまるで夏山のように暑い。調子に乗って景気づけにと鏡平でチューハイを買って飲んだのも調子が出なくなった原因かも知れない。うん?思い返せば2年前にここを通り過ぎた時にも全く同じことを書いたような気もする。まぁ仕方ない。そんな性分は変わりようがない。鏡平より先はほぼコースタイムで歩くようになる。それにしても朝から快晴の空が広がり、すでに何度か登っている双六岳から三俣蓮華岳の稜線は別に歩かなくていいと思っていたのだが、この快晴に登らない手はないと登ることにした。

3連休の初日、もしかしたら三俣山荘のテント場は早い時間で満杯になるのではないかと思い、そうなら三俣山荘ではなく黒部五郎小舎に行こうと思っていたのだが三俣山荘が見える三俣蓮華岳からテント場を見下ろすと思ったほどテントが張られてないように見えたので、まあすでに疲れていたのもありラッキーと三俣山荘に下ることにした。そして、下るにしたがってそれは間違いということに気づくことになる。実は三俣蓮華岳山頂からは手前にあるちょっとした丘がテント場の視界を遮ってたくさん張られたテント場の実際の様子が見えなかったのだった。

14時半過ぎだったが三俣山荘からずいぶんと外れたハイマツの脇のそこそこ平らな場所に何とかテントひと張り分のスペースを見つけることができた。トイレは山荘にしかなくその点は面倒だが、もうちょっと遅かったら斜めった場所しかなかったと思うとよかった。テントを張り終えてテント泊の受け付けに行くと山荘前には、ここは原宿かどこかのタピオカでも売ってるお店か?と錯覚してしまうような受け付け待ちの驚くような長蛇の列ができていた。
イタドリヶ原あたりまで登ってくる。2年前に北アルプスを縦走した時、2日目まで山友と登ったのだが、その時このイタドリヶ原あたりで2人組の登山女子と出会った。そして、その山友と登山女子の一人が今年の3月に結婚した。何とも縁起のいい場所。
シシウドヶ原。
風もなくきれいに逆さ槍ヶ岳を水面に映す鏡池。ここにテント場があれば最高なのだが。ゆっくり歩いたつもりだったが思ったよりも快調なペースでここまでたどり着いた。
鏡平山荘。屋根の上に布団を干す山小屋のスタッフ。その屋根の上で寝てみたい。
鏡平山荘を出発する。ここで飲んだチューハイが悪かったのか森林限界を越えて暑かったのかこの先一気にペースが落ちた。チューハイ飲んでペースが落ちると言う2年前と全く同じ展開…
これから先、分かってはいてもまた槍ヶ岳の写真ばかり撮ることになるのだろう…
槍ヶ岳へ続く西鎌尾根の稜線の向こうに燕岳が見えている。
双六小屋と鷲羽岳、その右にちょこっとだけ水晶岳。水晶岳は黒岳とも称されるように黒く見える。
双六小屋でちょっと休憩する。にぎわっている登山者の多くが三俣山荘に行くような話をしている。三俣山荘のテント場が混むようなら黒部五郎小舎に行こうか…
双六岳から三俣蓮華岳までの稜線は何度も歩いているので巻道を行こうかと思っていたが、こんなに晴れたら稜線に上がらない手はない。双六岳のこのドーム台地は本当に絵になる。
三俣蓮華岳カールの向こうに槍ヶ岳。
雲ノ平と向こうに頭に雲を被った薬師岳。ここから三俣山荘のテント場を見てそんなに混んでなさそうだったので黒部五郎小舎ではなく三俣山荘に下りたのだが…
三俣山荘につくと受け付けに長い列ができていたのにびっくりした。
小屋まで歩いて10分弱掛かるが風も避けれるそれなりに平らなスペースを見つけることができてよかった。

DAY3: 9月15日(日)三俣山荘~雲ノ平

今日は三俣山荘から雲ノ平までの3時間半ほどの行程なのでゆっくりと朝起きる。ゆっくりと言ってもこの夏は毎朝サーフィンをするために4時には起きるので多分に漏れず既に4時には目が覚めていたのだが取りあえずシュラフの中で6時半頃までぐだぐだしていた。大方の登山者はここのテント場を起点に鷲羽岳や水晶岳、黒部五郎岳、雲ノ平やらに向かうのでテントから出た時には既に静かなテント場だった。

この利便性のよさが三俣山荘の人気に貢献しているのだろう。ジビエ料理を出したりと特色のある山荘には変わりないが、ここにテントを張ると重たいザックを持たずに色々なところに日帰りでアクセスできる。特にピークハンターにとってはもってこいのベースになるのだろう。

差し込んできた陽ざしでテントを乾かし、8時過ぎ雲ノ平に向かって黒部川源流の渡渉点に下っていく。今回もこの黒部川最源流でフライフィッシングすることを楽しみにしてきたのだ。いつものようにエルクヘアカディスを結ぶ。釣っているところを見られるのはちょっと恥ずかしいので渡渉点より少し上流から釣り始める。いくつかのポイントを進んだ先、右岸の石の脇で最初のアタリがある。すかさず合わせるとすぐに重みを感じる。26センチのいいサイズのイワナだ。今回もちゃんと黒部源流のイワナに出会うことができた。その後、快晴の空に太陽が高く上がると途端にアタリがシビアになってきた。それでも1時間半ほどで3尾のイワナをキャッチ。十分に満足できる源流の釣りだった。

まだ歩いたことのない黒部源流の渡渉点から岩苔乗越までのルートを登って行く。今日も快晴だが昨日同様に夏のように暑くてたまらない。黒部最源流の冷たい水で顔を洗って頭に被ると最高に気持ちがよかった。たった今、洗った僕の脂の分子レベルの成分も、ここからそのうちに富山湾に達するのだろうと思うと申し訳ないがちょっと感慨深くもあった。

雲ノ平のテント場に向かいまずはテントを張る。13時時点で14張りほど。三俣山荘とは違ってのんびりした空気がここには流れている。多くの登山者が雲ノ平に来るが観光のように雲ノ平山荘に行ってちょっとばかりの時間を過ごして帰って行く人が多いように思う。『最後の秘境』と称され、多くの登山者の「憧れの地」なので一度は訪れたいと思うのだろうが、僕が思うにここは終日ゆっくりした時間を過ごしてこその場所なのに、通りすがりのように来て去っていくのは本当にもったいない。

雲ノ平山荘にテント泊の受け付けを済ませ山荘前のベンチでビールを飲んでいるとウィスキーを片手に持った男性が来たので話し掛ける。自分もそうなのだが明るいうちから人目につくところで酒を飲んでいるソロの登山者はだいたい他の登山者と話す機会をうかがっている。

聞くと彼は新潟山岳会に所属しているということだった。そして、さすがに山岳会に所属しているらしくたくさんの山について精通していた。しかし、それより何より声が大きく陽気でおしゃべりでとても愉快な人だった。ここに来る道中にも同じようにたくさんの登山者とその親しげな性格で顔見知りになっているらしく、この夕べは雲ノ平のテント場で彼が呼んだ他の登山者2人を含めて4人であれこれと山のことを語りながら楽しく酒盛りした。
朝の三俣山荘はクラシック音楽が流れていた。何ともさわやかな朝。
黒部源流の渡渉点。さて今回もイワナは相手をしてくれるか…
この26cmのイワナを筆頭に3尾のイワナが遊んでくれました。こんなところまで心ない釣り人は来ないだろうと写真も場所も公開しています。アルプスでは釣り禁止などにならないように当然のこと糸くずなどのゴミを捨てない、リリースする、植生を荒らさないなど当たり前のマナーを守って釣りをすることをお願いします。
黒部川最源流の水場。ここはチョロチョロ過ぎだった。
水場のちょっと下で分岐するもうひとつの沢は水量豊富だった。顔を洗い頭から水をぶっ被ると冷たくて最高に気持ちよかった。今日も夏のようにとても暑いのだ。
黒部五郎岳のカールを真正面に祖父(じい)岳山頂でくつろぐカップル。ちょっとうらやましい...祖父岳はメジャーな山ではないが北アルプスの百名山のスターたちを眺めるには最高の場所だ。
雲ノ平キャンプ場。まずはテントを張る。
雲ノ平キャンプ場の水場は水量豊富。上半身裸になって濡らしたタオルで体を拭く。この3日間夏のように暑くたくさんの汗をかいてきたのでシャワーでも浴びたように気持ちよかった。
夏のように暑いのだが花はもうほとんど終わっていた。チングルマも綿毛になってすでに秋の装い。
雲ノ平山荘に向かう木道を歩くソロの女性。この木道を歩くのは最高に気持ちがいい!
さて山荘に向かいます。
雲ノ平山荘2階のオープンテラス。最高の景色を肴に酒が飲める。青山や表参道にあるどんなシャレたカフェでもここには敵わない。
テント場から黒部五郎岳方面の夕景。黒部五郎岳の右、鞍部の中央遠くに白山が見えている。

DAY4: 9月16日(月)雲ノ平~奥黒部ヒュッテ

「黒部源流で釣りをする」「雲ノ平に行く」この二つが今回の山行でやろうと思っていたことだ。では、さてこの先どうしようか?

昨朝、三俣山荘の掲示板に書かれていた天気予報だと今日の天気は下り坂だ。登ってきた道を折り返してもう帰るか?それとも前々から歩いてみたいと思っていた読売新道を歩いてみるか?ただ読売新道は稜線歩きなのでせっかく歩くなら気持ちよく晴れた日に歩きたいし、そしてもう2日間の行程が必要になってくる。

朝4時、曇り予報の朝だったがテントの外に顔を出すと満月に近い月が雲ひとつない空に輝いていた。これはもう行くしかない!!!すぐテントを撤収して雲ノ平キャンプ場を後にする。まだ暗い内にヘッドライトを着けて歩くなんてどれくらいぶりだろうか。

ところが次第に空が明るみ祖父岳への分岐まで来るとあれだけ快晴だった空に怪しい雲が広がり始めた。どうやらテント場から見える西の空は快晴だったが、見えない方角の東の空には既に朝から雲が広がっていたようだった。そして、祖父岳山頂に登り切った頃にはもうあたりは雲に覆われて霧雨すら降り始めた。レインウェアも着込み濡れないようにミラーレスカメラをザックに仕舞い込む。「これじゃ読売新道はまず無理だろう...」と思いつつ折角こんな朝早く出てきたのだからせめてまだ登ったことのない読売新道の入り口にある水晶岳までは行ってみようと思った。

そんな天気で気持ちも乗らずにコースタイムくらいのペースでしか歩けない。「ここ4年前に反対から歩いたなあ。確かその時も霧雨だったよな。そしたらライチョウが出てきてご褒美だなと思っていたら祖父岳から雲ノ平への下りで一気に雲が抜けて晴れたんだよな...」と考えながら歩いていると、すぐ目の前に一羽のライチョウが現れ、そしてさらに水晶小屋に向かって登っているとみるみるうちに雲が抜け始め、水晶小屋裏の小高いピークまで来ると滝のように流れる雲の合間に北アルプスの雄たちの峰々が360度、もうえも言われぬ芸術的な絶景で広がった。そして北を向くとそこにはそびえ立つ水晶岳の向こうに雲ひとつ掛かってない読売新道の稜線がきれいに見えていた。これを見たらもうそこに向かわないという選択肢はなくなった。

水晶岳を通り過ぎると読売新道は後立山連峰の稜線にも似た岩稜帯が続いていた。石にペンキでマーキングはあるものの間隔が遠かったり見つけにくい位置にあったりとルートを見落としやすそうな道が続いた。読売新道はやはり天気が悪い時に歩くのはできるだけ避けた方がいいだろうなと思った。

高天原温泉へ下る温泉沢ノ頭を過ぎると赤牛岳へ近づくと山容は次第になだらかになり、ゆるやかな最後の稜線を登り切ると200名山赤牛岳(2,864m)山頂にたどりついた。遠くから眺めると読売新道はたおやかな稜線が続くように見えるが、実際、歩いてみるとアップダウンがこんなに激しいのはとても予想外だった。

赤牛岳から奥黒部ヒュッテに向かって下る。そしてまたこの下りが険しかった。最初は切れ落ちた崖のわきのガレた不安定な道で、次にそこから先、森林限界以下に入るとコケや湿った泥で滑りやすい石がゴロゴロした掘れた道が続き、そしてさらに下ると今度は倒木と木の根がむき出しになった道になる。こんな悪路をコースタイムで4~5時間かけて標高差1,500mも下って行かなければならない。しかもマイナーな読売新道。人に出会うことはほとんどなく、薄暗い登山道を歩いていると本当にこの道で合っているのか不安になってくる。ただ唯一この区間を8分割した7/8、6/8、5/8...標識を20~30分ごとに確認すると安心した。

下っている尾根の両サイドから次第に川の音が聴こえてくる。さらに急坂を下りて行くと奥黒部ヒュッテが見えた。本当にきつかった。赤牛岳から3時間20分ほどで下りてきたが間違いなく今まで歩いた中で最もきつい下りだったと思う。ここを歩くのは二度目はもういいかなと思った。そして、もしここを登る人、さらに2回以上登った人がいたらそれはもう変態でしかないと思った。

奥黒部ヒュッテは釣り人の間では釣りスポットとして名の知れたところだ。読売新道を歩き奥黒部ヒュッテに下りたかったのは、ここで釣りをしてみたいというのもその理由のひとつだった。

テント場にテントを張り、そこから3分ほど歩くとその下流で黒部川本流に流れ込む東沢の渡渉点に出る。想像に反して川が大きく、水量があり、流れが速く、それはまったくフライフィッシング向きではなかった。山を歩いて出くわした沢でちょっと竿を出すというスタイルなので、ウェーディングシューズなどもちろん持っておらず、川に立ち込むことができないので狙えるポイントはほとんどなかったが、川の隅の流れのゆるやかなポイントをいくらかやってみたが全く魚の反応もなく次第に小雨が降ってきたので20分程で止めた。

夕方、釣りからテント場に一人のルアーマンが戻ってきた。話すと2時間ほどでイワナを3尾キャッチしたと言う。ウェーディングしてきちんと釣ったらそれなりに釣れるのだろう。そしてそのルアーマンの話によると黒部川本流の方には黒部ダムから遡上してくるニジマスが釣れるということだった。ただ沢好きとして、ここはあまり魅力を感じることのない川だった。
輝く月の明かりに晴れ渡っていると思ってまだ暗い内にとび出してきたが雲ノ平キャンプ場から見えていなかった反対の空はすでにあやしい雲が垂れこめていた。
水晶小屋まで登ってくると雲が流れて青空が広がり始めた。
そして10分も経たないうちに晴れわたり感嘆するほどの景色が広がった。
雲上に突き抜ける槍ヶ岳。
裏銀座に滝のように流れる雲。
百名山水晶岳山頂。切り立った狭い山頂だった。
今朝出発した雲ノ平の台地。
これから向かう読売新道の縦走路と二百名山赤牛岳。そして右隅下に黒部湖。これからコースタイムで7時間掛けてこの縦走路を奥黒部ヒュッテまで歩いて行く。
高天ヶ原温泉に向かう温泉沢ノ頭分岐。直線的な破線ルートになっているが分かりやすい道なのだろうか。
そして眼下に高天原山荘が見える。
温泉沢ノ頭を過ぎると険しかった登山道がなだらかになる。この稜線を登り切ると赤牛岳山頂だ。
赤牛岳山頂。マイナーな山らしく地味な山頂と標識。そして読売新道はここからの下りが長い。
山頂直下は西側が崩壊したガレた岩場が続く。
そして、大岩、大石が点在するハイマツ帯を下って行く。正面眼下に黒部湖が見える。まだまだ相当下らなければならない。
ワイルドブルーベリーがたくさんなっていた。甘い!ということはないが何となく時々つまみながら歩いた。
長い長い読売新道をテント泊を前提に登るには奥黒部ヒュッテから三俣山荘までコースタイムで12~13時間掛かる。それならもうビバークを前提にして登ってくる人もたくさんいるのだろう。平なところにはテントサイトがところどころにあった。ここに水場があれば完璧なのだが、この長さを登るには奥黒部ヒュッテで水4リットルは担ぎ上げてくる必要はあるだろう。テント泊で登るのは大変そうだ。
森林限界に下がるとコケやドロ、気の根っこなどで足場の悪い道が続く。途中、巨大な倒木を連続してくぐったりする箇所があり大型ザックだと通り抜けるのに難儀して疲労する。
途中で見つけたアーティスティックにも大石の上に育った大木。よくこんな場所でここまで大きくなったものだと感心する。
3時間半ほどでやっとやっと奥黒部ヒュッテまで下りてきた。本当にきつかった。エビスビールが格別に美味しかった!
奥黒部ヒュッテのテント場。今朝、結露したテントをたたみ、途中霧雨にも降られたので色々乾かしたかったのだがテントを張ると小雨が降ってきた。疲れていたのかあまり考えず平坦で広いテント場の適当な場所にテントを張ったらテントのど真ん中に大石があったのを寝転がってみて気づいた。
夕方ちょっとだけ東沢で竿を出してみたが魚の反応はなかった。渡渉点の前後しか見てないが流量が多く流れも速くフライフィッシング向きの川ではないようだった。

DAY5: 9月17日(火)奥黒部ヒュッテ~ロッジくろよん

黒部湖を渡る10時20分の平ノ渡船の時間に合わせて8時前に奥黒部ヒュッテを出発する。話には聞いていたが奥黒部ヒュッテから平ノ渡までの登山道は黒部の切り立った谷にまるでアスレチックのように木のハシゴが架けられた道が続いた。場所によっては40~50メートルはあろうかという高さの絶壁に架けられたハシゴを歩いて行く。何が怖いか足を置くそのハシゴの木が折れているところがあるのである。そしてその木はそれほど太くはない針金で固定されているだけだ。68kgの体重に20kgのザック、合わせて85kg。自分が足を掛けた番にその木がポキっと折れないことを祈るばかりだった。体重の圧力がおぼつかないハシゴに一気に掛からないようにそーっと足を置きながら進んだ。そして何よりもし雨の日にはこの木が滑って相当たちが悪いだろう。そんな日は歩きたくない。

平ノ渡船に10分ほど乗って対岸の平ノ小屋に渡る。小屋には寄らずに黒部ダム方面に向かって歩き始める。地図を見るとコース上には黒部湖に流れ込むいくつかの沢があり渓相を見て釣りができそうだったそこで釣りをしてみようと思っていた。

渡場から20分ほどで中ノ谷の沢に出た。見るからにいい感じの渓相に一応、竿を出してみることにする。もし可能なら今日中に信濃大町まで出て帰れるなら帰ろうかなとちょっと思っていたのだが、この川の流れを見ると釣らずにはいられなかった。これでもう帰るのはゆっくり明日にして今夜は次のテント場である黒部ダムのすぐ近くのロッジくろよんに泊まることにした。

しかし残念なことに予めチェックしていたこの中ノ谷、御山谷の沢でそれぞれ5~6回ほどアタリがあったのだが掛からなかった。ピーカンで全く木に覆われていない沢だけに警戒心が強かったのか、フライの選択が悪かったのか、それともちょっとした釣り師なら来れそうな場所なのでシビアなのか…理由は分からないが1尾もキャッチすることができずがっかりした。

ロッジくろよんのテント場には僕以外もうひと張りしかなく、そして夕方になってもそれ以上増えることはなかった。平ノ渡船に一緒に乗った登山者たちは、ほぼこの日のうちに下山してしまったのだろう。

2張りしかなくちょっと寂しい雰囲気のテント場で、そこにいるもう一人のテント泊の登山者がテントから出てきたら話しかけてお酒でも一緒に飲まないか誘ってみようかなと思っていたのだが、その人は朝までただの一度もテントから出てくることはなかった。
小屋前に貼られた平ノ渡船の時刻表。
ネット情報で知ってはいたが奥黒部ヒュッテから平ノ渡場までの道はよくこんなところに道をつけたなと言うようなハシゴが続いた。
こんな長大なハシゴの上り下りが何度も何度も現れる。場所によっては黒部湖まで垂直に切り立った崖に架けられたハシゴもありマジで緊張した。
一日4~5便ある黒部湖の渡船。黒部ダムができるその昔この下に吊り橋があり、そして黒部ダムができるとその橋がダム湖の下に沈む代わりに無料の渡船ができたということらしい。
たった10分もない間だけの乗船だったが船上の風も気持ちよく観光気分のような楽しいひとときだった。
渡船から眺め上げる平坦な五色ヶ原。行ったのはもう5~6年前のこと。また行ってみたい。
黒部湖に流れ込む中ノ谷の沢。適度にあたりがあるので1時間半ほど粘ったがフライに魚が乗ることはなかった。沢の黒部湖への流れ出しで長いロッドでストリーマーでもキャストしたら大型のニジマスでも釣れるのだろうか。
渡船で渡ったこちら側の登山道にもいくつか長いハシゴがあるが危なっかしいのはないので安心。
御山谷の沢。こちらもそれなりにあたりがあったが魚は掛からなかった。
ロッジくろよんのすぐ横にあるタンボ沢。前の二つの沢で釣れなかったし、テントも早く張りたかったのでここでは竿を出さず。ただ渓相もよく時間があったらちょっとやってみたかった。来年、このあたりの沢だけのためにまた来てみようか。
最後の宿泊地、ロッジくよろん。玄関にお酒の自動販売機があるのとその値段に街の近くに下りて来なと感じた。
ロッジくろよんのテント場。昭文社の地図には「60張り可」と書いているがそんなに張れるか?半分くらいじゃないかな。この日は僕と向かいのたった2張りだけだった。

DAY6: 9月18日(水)ロッジくろよん~黒部ダム

ロッジくろよんから30分も歩けばもう扇沢行きのバスに乗ることができる。とても天気に恵まれた今回の山行だったが朝5時頃ぽつぽつとテントに当たる雨音が聞こ始め、6時には本降りになってきた。最後の最後に降られてしまった。

雨の撤収は何もかも濡れて本当に厄介だ。何とかできるだけ物を濡らず撤収しようとテント場のすぐわきにあるトイレ前の軒下にまずテント内の全ての荷物をザックに詰め込んで移動させ、残ったテントだけを雨の中、速攻で片づけることにした。多くのテント泊の人がいたらとてもこんな撤収はできなかっただろう。ちょっと寂しかったけど結果としてはラッキーだったのだろう。

ロッジくろよんから黒部ダムまでの道はもう舗装された道だ。黒部ダムに続くトンネルに入りケーブルカーの黒部湖駅を左に見ながら右折、まっすぐ進むとトンネルを抜け黒部ダムに出た。まだ7時半過ぎの黒部ダムは観光客もおらず静かだった。ダムを覗き込むとダムの観光放水が大迫力に見えた。ダムの欄干の向こう側にスマートフォンを出してその大迫力の放水を撮る。撮ってる最中に手を滑らせてスマートフォンをダムの下に落としやしないかハラハラと股間に寒いものが走る。

ここに来るのは1988年、高校2年の修学旅行以来なんだなと思うと感慨深かった。当時、付き合っていた彼女とここをぎこちない会話をしながら一緒に歩いたのを覚えている。まわりの同級生の視線が気になって気になって仕方がなかった。あれから31年、竹内まりあの曲じゃなけど人生の色々な扉をこの30年で開けてきたんだろうなとしみじみ思った。黒部ダムから扇沢に向かうバスはかつてのトローリーバスではなく電気バスに変わっていた。

あまり計画を立てずに行きあたりばったりで3~5泊くらい歩こうと思っていた今回の山行は久しぶりに予定いっぱいの5泊かけて歩きたいと思っていた読売新道も歩くことができた。僕のアルプス縦走マップにまたひとつ長い赤いラインが付け加わった。

またいつか歩きたい道とそうでない道があるなら読売新道は二回目はもういいかなと思う(笑)楽しいサーフィンに明け暮れた今年の夏だったが、きつかったが山登りの魅力も再認識できた山行だった。海と山の二刀流を続けて行こう!
朝6時を過ぎると雨が本降りになってきた。トイレの軒下にテント内の荷物を一旦移動させる。
黒部ダムへ向かう道は舗装されている。
黒部ダムと黒部湖に掛かる小さな吊り橋。
黒部ダムの観光放水。もう少し迫力はるように撮りたかったが欄干の向こうにスマートフォンを出すと今にも手が滑って落としそうでハラハラしてこれ以上出せなかった。
黒部ダムを越えて扇沢に向かうバス乗り場に向かうトンネル。説明付きの黒部ダム建設までの歴史が時系列にトンネルの壁に設置されていた。
この山行の終点、扇沢に到着する。バスは30年前に乗った架線のあるトローリーバスではなく電気バスになっていた。久しぶりの長期縦走だった。サーフィンもいいが山もいい。改めてそう感じた。

データ

  • 入山日: 2019年9月13日(金)
  • 下山日: 2019年9月18日(水)
  • 登山エリア: 北アルプス
  • 登山ジャンル: 縦走登山
  • 登山スタイル: テント泊
  • メンバー: ソロ
4030