年末に風邪を引いてしまってから咳だけがなかなか抜けきらず、ひと月ほど山に行くことができなかったので、今回が2018年登り始めの登山だ。行先は、八ヶ岳。どこに登るか迷ったが、ここ2回連続して赤岳鉱泉に行っていたので、少し違うところに行きたいと思い黒百合ヒュッテにテント泊して、天狗岳に登ることにした。
12月、冬山でのテント泊を初めて体験して、持っていた60リットルのザック GREGORY トリコニでは、これからいくつか増える雪山装備を思うと、とても容量が足りないと感じセールになっていたGREGORY バルトロ 75リットルザックを手に入れてから初めての山行だ。やはり新しい道具を手に入れて初めて使う時はワクワクする。さらに今回は、モンベルで買ったショベルも初同行。さらに、これからやりたい雪山縦走を考えると次はスノーシューもしくはワカンは絶対必要だし、冬山ギアがどんどん増えてくる。
まだまだ、2回目の雪山テント泊の未熟者だが、始めて何かものすごく解放された感がある。今までは雪が消える5月くらいから11月くらいまでがテント泊のシーズンで、その間に行っておかないとという、ちょっとした焦りというか急くような気持があったのだが、雪山テント泊をやり始めて、年中テント泊ができると思うととても余裕のある気持ちになる。
さらにほとんどの営業小屋が閉まった冬季のテント泊では、どこでテントを張るかは基本的に自由だ。もちろん安全には大いに気を付けないといけないが、やろうと思えば自分が好きな景色の場所に寝泊りできる解放感と自由さがある。
夏とは桁違いに厳しい自然条件を差し引いても、人も多く何かとルールの多い夏のテント泊よりもよっぽど魅力的かも知れない。なぜアウトドアをしているのかと言えば、誰にも指図されない自由さを求めている訳だから。とは言え、まだまだ、それを、どこででも自信を持って実行できる技術も勇気もまだない。一歩一歩、経験を積み重ねていくしかない。
茅野駅の黒百合ヒュッテに向かうバスは臨時便が出るほど大勢の人で賑わっていた。今週、久しぶりに八ヶ岳にまとまった積雪があった。みんな雪を待ってたようだ。
今日は、黒百合ヒュッテまで、たった2時間ちょっとの行程だったが、結構、足にきた。黒百合ヒュッテは、すでに10張りほどのテントで埋まっていた。真新しいショベルでテントサイトの整地、風対策として30~40センチほど掘り下げる。サラサラの雪で持ってきた竹ペグでガイラインを雪の中に固定するのに苦労する。
テントを張り終わってテント泊の受付をするとテント泊の人は飲料水は雪から作ってくれと言われる。先月テント泊した赤岳鉱泉ではふんだんに水を貰えたし、夏シーズンの黒百合ヒュッテではいつも飲料水を貰えていたので油断していた。テントサイト横の雪の表層を掻き分けて内側のきれいな雪をとって水に戻す。低温でガスの威力も弱く、結構、時間のかかる作業だ。30分ほどでやっと1.5リットルの水を作ったが、持ってきた110グラムのガスの70%以上は消費した。
夜中、気温はだいたいマイナス11℃前後で推移、朝方、少し寒さを感じたが十分に睡眠は取れた。
翌朝、まだ暗い5時くらいからガサガサと周りのテントで今日の行程の準備をする音が聞こえる。寒いし暗いし...とても、厳冬期のこの時間に暖かいシュラフから抜け出す勇気がない。辺りが明るくなり始めた7時前、やっと決心してシュラフから抜け出した。
快晴。風もそれほど強くはなさそうだ。天気があまり良くなかったらここにテントを張りっ放しにして気軽に天狗岳をピストンするつもりでいたが、この快晴、天狗岳から硫黄岳まで縦走することにした。急いで全ての荷物をパッキングして、8時半過ぎに歩きだす。
予定より30分ほど遅いが仕方がない。それでもやっぱり75リットルのザックにしてパッキングが相当に楽になった。取りあえず、ある程度、雑に投げ込んでもそれなりに入っていく。こういう厳冬期や、夏でも雨の日のパッキングを思うとある程度、余裕のあるザックを持っている方が使いまわしがいい。
天狗岳、根石岳を越え、硫黄岳に向かう。箕冠山から夏沢峠間はあまり多く歩かれておらず踏み抜きに苦労した。
20キロ近い大荷物を持っての積雪期の縦走に、正直、初めてピッケルの必要性を強く感じたように思う。今までは、例えば、数年前に厳冬期の赤岳に登った時でさえも、どことなく、それほどピッケルが必要だったのかなという気持ちがあった。
これらの山を登るにあたって体裁も含めて持たない訳には行かないが、ピッケルがなくても普通に登れるんじゃないかなという感覚だった。もちろん、滑落停止では絶対必要なのは分かってはいるが、その他を思えば、果たしてどれくらい使えるものなのか、自分の中できちんと整理できない部分があった。
しかし、今回、重い荷物を持ってでの雪山縦走で初めてピッケルの必要性をちゃんと認識できたように思う。重い荷物を持ってでの確実な一歩一歩の踏み出しには3つ目の支点としてピッケルは欠かせないと思った。とてもストックでは役不足だし、強力な素材でできているピッケルを持っていることで安心感があった。
こうやって「格好」とかではなく、本来の意味として、その道具の本質を理解できた時、とても嬉しいし、成長出来ているんだなと感じる。
硫黄岳から少し下りて赤岩ノ頭を眺めると12月に来た時に比べてずいぶんと雪が増えていた。また登山ルートも斜面を直登する冬ルートに代わっていた。恐らく前の週の積雪でルートが消えて、その後、最初に歩いた人が付けただろう登り返しが何度も訪れる酷いトレースの雪道を下って赤岳鉱泉に下りる。今日は最後まで快晴の穏やかな一日だった。ビールを一杯飲んでバス停のある八ヶ岳山荘まで下った。雪山でテント泊、縦走と、ちょっと自信が持てる今回の山行だった。