丹沢にはいくつかの主だった山の峰々の流れがある。稜線が塔ノ岳から丹沢山、蛭ヶ岳を通り道志へ向かって北へ貫く丹沢主脈。そして、その流れが蛭ヶ岳から西へ臼ヶ岳、檜洞丸へと続くのが主稜。
以前からこのふたつのルートを日帰りで歩き通したいと思っていたが、恐らく丹沢の日帰り縦走ルートとして一番ハードだろう丹沢主稜縦走は特に踏破欲をそそるルートだと思っていた。そんな折に山友だちのMさんから丹沢主稜を歩きませんかとお誘いがあった。思ってもない機会に参加することにした。
06時48分 渋沢駅を始発のバスに乗る。紅葉シーズンということもあって多くの登山客でバスは一杯だ。大倉登山口に到着。準備を済ませ登山者カードに記入する。丹沢の登山者カードは山の名前が予め記入されていて、登る山に○を付けてルートを線で結ぶことになっているのだが、僕たちが歩くルートは前提にないのか蛭ヶ岳より先は記入されていなかった。
07時05分 大倉登山口を出発。予報通り天気はとてもいい。Mさんを先頭に歩き始める。予定では塔ノ岳まで2時間30分で登ればいいのだが、後半にタイムがあがらないことを考えると消耗し過ぎない程度に急ぐことに越したことはない。
登山客を追い越しながら登って行く。先日、2時間程で塔ノ岳まで歩いたペースに比べるとずいぶん余裕のあるペースなのだが、気温が高いせいか、ここ2週間で2キロ増えた体重のせいか息が上がり足が重く感じる。Mさんを前に遅れをとらないようにペースを維持する。実はMさんと歩くのは今回が初めてなのだが、彼が書く日記で知ることができるようにかなりの健脚の持ち主だ。
07時21分 塔ノ岳山頂に到着。ここまで2時間16分。まだまだ長い道程があることを思えばなかなかいいペースだ。水を飲み、行動食のバナナチップでエネルギーを補給して出発する。
最近、行動食にまたバナナチップを携帯するようにしている。以前はナッツ類を持って歩くことが多かったのだが、今年の秋に北アルプスを歩いた時、異常に甘い物が食べたくなり困った。それから食事は塩分を摂ることができる物を、行動食では甘い物を持ち歩くようにするようにした。
塔ノ岳から丹沢山まではアップダウンが少なくペースを上げてもそれ程疲れることがないコースだ。ただ、今日はとても足が重い。Mさんが一段一段、軽快に階段を駆け上がるリズムのいい音を聞きながら、僕は一段飛ばしずつ足の回転をゆっくりに大股で歩いて何とかペースを維持する。
山の歩き方として歩幅は小さくということを何度か耳にしたことがあるが、個人の筋力のバランスもあると思うのだが、僕個人としては、足の回転はゆっくりと大股でペースを維持する歩き方の方が圧倒的に楽に感じる。それゆえに歩幅を決められた階段歩きはとても負担に感じる。
10時26分 丹沢山で10分ほど休憩して蛭ヶ岳に向かう。表尾根から西丹沢方面に雲が立ち込めはじめる。
丹沢山から蛭ヶ岳の間は恐らく僕が今まで歩いた丹沢で一番好きなルートだ。背丈の低い笹原が草原状に広がり、正面に富士山、左にユーシン渓谷、右に宮ヶ瀬湖から東京まで続くメガロポリスの街並みを見ながら歩くことができる丹沢随一の絶景ルートだ。しかし、今日はその景色さえも余裕を持って眺めることができない程この時点で疲れきってしまった。
11時37分 蛭ヶ岳山頂に到着。大倉から4時間32分。昨年12月に歩いた時とほとんど同タイム。当初の計画では12時までに蛭ヶ岳に到着すれば後はコースタイムで歩けば大丈夫と予定立てていたので、取り合えず一安心。蛭ヶ岳山荘に入って缶ビールを購入して乾杯、昼食を取る。今日は荷重を抑えるために持参したおにぎりで済ませる。ますます広がり始めた雲で西丹沢方面は薄っすらと見える程度までに視界がなくなってきた。ここから先は眺望は期待できなさそうだ。
12時09分 蛭ヶ岳出発。ここから先は個人的未踏ルート。初めて歩く所は高揚する。登山道は蛭ヶ岳から300メートル一気に下降、岩場やクサリ場が連続する。またザレ場も多く、小石に足を取られ派手に転倒し足首を少し伸ばしてしまった。また至る所に茂ったいばらが服に引っかかりうっとうしい。
鞍部まで下り、振り返ってみるとさっきまで居た蛭ヶ岳が反り立っており、ずいぶん降りてきたことが十分伺えた。ここからミカゲ沢ノ頭に登り返す。この後、蛭ヶ岳~檜洞丸の間ではとにかく大小多くのアップダウンの繰り返しが続く。長距離山行で既に疲れた身体にはとても堪える。少なくとも景色が良ければもうちょっと精神的にカバーできたかも知れないが、霧で視界もなく本当に参った。
それらのアップダウンを繰り返し進むと、一際大きな山が現れる。檜洞丸だ。200メートルは登るのだろうか。霧が立ち込めているのでどれくらい登れはいいのか分からない。それでも今日最後のピークと言い聞かせ必死に足を運ぶ。気付けばルートから外れて歩いていたが、多少歩き難いがただ上に上に登るだけなので問題ない。次第に傾斜がなだらかになり始め、木々がまばらになると山頂直下にある青ヶ岳山荘が見えてきた。中には入らなかったが煙突から煙が上がり、本日の宿泊客を待っているようだった。外には新しく清潔なトイレも整備されており、しっかり管理されているようだ。
14時36分 檜洞丸到着。山頂には10人程の大学生らしいグループが賑やかに談笑していた。時間も時間なので青ヶ岳山荘に泊まるのだろう。視界は全くなく相変わらず霧で真っ白。バスの時間もあるのでエネルギー補給をしてそそくさ下山する。17時過ぎのバスには何とか間に合いそうだ。それを逃すと次の19時のバスまで待たなければならない。
下山ルートのツツジ新道はこの春に一度登っているが、予想以上に急傾斜で驚いた。これはピストン登山の時によく感じるのだが往路の登りの傾斜より復路の傾斜の方が断然、険しく感じる。行きと帰りという精神的な余裕の違いや身体の疲労が影響しているからだろうか。もしくは人間は単純に高所に本能的な恐怖感を持っているから、そう感じるのだろうかか。
16時48分 暗くなる前に下山口の西丹沢自然教室に着く。丹沢主稜踏破を祝して乾杯しよう思いビールを探したがどこにも売ってなくて残念だった。西丹沢自然教室は公共の施設で問題があるのだろうがビールくらい置いてくれたらといつも思う。しばらくして到着したバスに乗り、今日のことを顧みながら帰路についた。やり切った達成感が溢れるいい山行だった。
この丹沢主稜縦走の計画を立て、山行に誘ってくれ、また一緒に歩いていただいたMさんに感謝します。
コースタイム
大倉(7:05)→堀山の家(8:24)→(9:21)塔ノ岳(9:29)→(10:14)丹沢山(10:26)→(11:37)蛭ヶ岳(12:09)→臼ヶ岳(13:01)→金山谷乗越(13:53)→(14:36)檜洞丸(14:50)→西丹沢自然教室(16:48)