南アルプスに行く予定だったのだが、台風15号の影響でバスが運休。広河原にさえ入れない。5月の鳳凰三山縦走以来、心も身体も疲れ切るような達成感のある登山が全くできていない。
ネットであれこれ調べると、上高地までのバスは運行しているようだ。思い立って「槍ヶ岳・穂高岳」の地図を買いにいった。今年はまだ、北アルプスをやる予定はなかったのだが...
21時半出発。午前2時前に沢渡大橋にある市営の駐車場に到着。まだ、半分程度しか埋まってなかったが、上高地行きの始発のバスが出る5時半前にはほとんどいっぱいだった。沢渡には、臨時駐車場も含め、このような駐車場がいくつもあるようだ。
始発のバスに揺られ上高地バスターミナルに6時過ぎに到着。予想した通り登山客でごった返している。
今回は、上高地~岳沢~重太郎新道~前穂高岳~奥穂高岳~涸沢岳~北穂高岳(泊)~涸沢~横尾~上高地を周るルート。
途中、涸沢岳~北穂高岳間には危険マークもあり少し不安もあったが、もし無理そうだったらザイテングラードから下山しようということにした。
●1日目 上高地~岳沢~前穂高岳~奥穂高岳~穂高岳山荘
いつものペースで歩き始める。上高地でごった返していた登山者は、横尾経由で涸沢、槍ヶ岳が多いのだろう。岳沢へ向かう人はそれ程多くはなかった。
長く続く樹林帯を抜け見上げると穂高連峰の峰々が、振り返ると上高地が見下ろせる扇状地に出る。とにかく天気も良く素晴らしい。
その美しさに見取れしばらく眺めていると「ゴー」と轟音が聞こえてくる。落石の音だ。自分が登っている直上で起こらないことを祈る。
岳沢小屋で少し休憩を入れ、重太郎新道を前穂高岳に向かって登る。重太郎新道に入ると、それまでとは打って変わり岩登りの様相となる。途中から腿が上がらなくなりペースがどんどん落ちてくる。見上げるとまだまだ稜線は遥か彼方...とにかく一歩一歩ずつ歩みを進めていくしかない。短い登山経験だが、僕の中では、この岳沢から奥穂高岳までの道程が今までで一番きつかった。
バテバテで前穂高岳への分岐、紀美子平に到着。ここにザックをデポして前穂に向かう。荷物がないので相当に身体が軽く感じるのだが、やはり腿はもう上がらない。コースタイム通りの時間を掛けて前穂の山頂に辿り着いた。
これが僕にとって初めての3000m峰。残念ながらガスってしまい遠くまで見渡せないがひとしおの思いだった。
再び紀美子平に戻り昼食を取り、次なる3000m峰 奥穂高岳に向かう。
しばらく歩くと写真などでよく見る、涸沢から眺め上げる穂高連峰の吊尾根の稜線に出る。尾根の西側は、今日登ってきた上高地と岳沢のカールが、東側にはカラフルにテントが張られた涸沢カールが眼下に広がる。ガスってなければジャンダルムや遠くに槍ヶ岳の雄姿も見ることができるのだろうか?ぜひ見てみたい景色だ。
時々岩に取り付くところもあるが、それ程、高度感や難しさを感じる所はない。
13時。北アルプスの最高峰 奥穂高岳に登頂。祠の前で記念写真を撮る。時々、ガスが抜けると険しい稜線の向こうにジャンダルムの姿が見える。目を凝らすと人が数人立っている。まだまだ技術的に未熟だが、そう遠くない内に僕もあの上に立ってみたいと思った。
求めるものがどんどん高く難しいものになっていく。それを乗り越えることが今の僕にとって「なぜ山に登るのか?」という問いの答えだと感じているのだが、この止まることを知らない欲求に一抹の怖さも感じてしまう。
山頂から30分程で今日の宿 穂高岳山荘に着く。三連休ということもあって相当に混んでいる。受付の時点で「寝床は一畳に2人」を宣告された。
●2日目 穂高岳山荘~涸沢岳~北穂高岳~涸沢~横尾~上高地
昨夜は、20時過ぎに寝たので、午前3時には目が覚めていたのだが起きて歩き出すにはまだ早すぎる。4時になると多くの人が動き始めたので起き上がる。支度を済ませて一階の土間に下りてお湯を沸かして朝食にコーンスープを飲む。
今日は、昨日、奥穂高岳山頂で知り合ったYさんと北穂高岳まで同行する。危険マーク地帯を歩くので心強い。僕は北穂高岳で下山するが彼はずっと先の槍ヶ岳まで行く予定のよう。
朝6時出立。涸沢岳山頂へグングンと高度を上げていく。
20分程で3110メートル涸沢岳の山頂。今日は、この上ない快晴だ!北に目をやると槍ヶ岳が天に向かって突き上げている。初めて間近で見る槍ヶ岳の姿に「きれい!」以外の言葉が出てこない。多くの登山者を惹きつける槍ヶ岳の雄姿はやはり筆舌し難いほど素晴らしいものだった。
涸沢岳を立つと今日のルートの核心部。D沢のコルに向かって断崖を下る。眺め下ろすと相当の斜度を下っていくことは間違いないのだが、興奮しているせいか怖いという気持ちは全くなかった。ただ大き目のザックを背負ってるので、岩に引っ掛けたりしないように慎重に下った。
D沢のコルを過ぎ、最低のコルまで下りきって今降りてきたルートを振り返ると、やはり「よくこんなところを降りてきたなぁ」と思った。
最低のコルから北穂高岳への登り返し、北穂高岳南峰の手前で稜線の西側の壁を通るルートで地図には危険マークはないがかなり高度感を感じる箇所があった。
北穂高岳南峰から北穂分岐へ一旦50~60メートル下り、再び登り返すと広く平らな北穂高岳山頂に着く。山頂脇に北穂高小屋がへばりつくように佇む。ここから槍ヶ岳へと伸びる稜線の絶景が続いている。いつか必ずこの稜線も歩いてみたい。
奥穂高岳から同行してきたYさん、途中で合流したNさんとここで別れ、ひとり涸沢に向かって降り始める。まだ朝9時だが、下調べでは上高地から離れる最終バスが17時(実際は18時まであったようです)、ここから上高地まで7時間の道程なのであまりのんびりとはしていられない。
涸沢で休憩して景色を楽しみたいが、涸沢から次から次に登ってくる登山者が多く、待ち時間でペースがあがらない。また降りても降りても涸沢は一向に近づいてこない。見た目以上に高度差があるようだ。
涸沢は評判通り絶景で快適なところだった。見上げるとカールに広がる雪渓の遥か上に、昨日、歩いた吊尾根が連なっている。「昨日はあそこから、こっちを見ていたんだ...」感慨深く感じた。
ここから上高地までは急斜面もない穏やかな下り道。ただ16kmと長いだけ。涸沢小屋のテラスで景気づけにビールを一本飲み、涸沢の景色に別れを告げ横尾に向かって歩き始める。
やはり登山者が多くペースがあがらない。
13時過ぎ横尾着。ここから上高地まで3時間強、しかも車も走れる林道なので何とかバスには間に合いそうだ。午後になっても雲ひとつない空と相変わらずの景色を名残惜しく眺めながら上高地に向かって歩いた。
念のため徳沢で最終バスの時間を確認すると、今日は18時まであるということ。徳沢には緑の芝が生い茂った快適なテント場があり、多くの人がキャンプを楽しんでいた。「山に登らずとも仲間とこういう所でのんびり過ごすのもいいな」と思ったが、今の僕は魅力的な山を目前にして登らずにいることは無理だろうなとも思った。
時間に余裕が出てきたので明神館から梓川の対岸の散策道を歩いた。整備された木道沿いの穏やかな支流では澄み切った清流に岩魚がたくさん泳いでいた。
河童橋に戻るとやはり連休中だ、観光客でごった返していた。その中を大きなザックを背負って颯爽と歩く。やりきった感もあり、ちょっと誇らしげな気分になる。でも、もちろん誰も何とも思ってはない(笑)でもそれでいい。自己満足でいい。
上高地バスターミナルで沢渡駐車場行きのバスの行列に並ぶ。観光客と登山者とで長蛇の列。次々にバスは出ているが40分程待ってやっとバスに乗れた。行列を見ていると沢渡駐車場行きより平湯駐車場行きの方がすぐに乗れそうだった。
16時30分。上高地を後にして今回の山行が終了した。
急遽、思い立ってやってきた初の北アルプスと3000メートルの峰々。想像以上の快晴もあり、今回の山行は一生忘れられない思い出になった。また、もう山から絶対に離れることができなくなったとも思った。穂高岳山荘では夕方、雪も舞い、今年中にまたここに来るのはもう難しいだろう。だが、また来年、必ずやってこようと心に強く思った。
コースタイム
1日目(7時間45分)
上高地バスターミナル(6:18)→(8:03)岳沢(8:11)→紀美子平(10:12)→(10:43)前穂高岳(11:53)→(11:13)紀美子平(11:42)→(13:02)奥穂高岳(13:21)→(14:03)穂高岳山荘
2日目(9時間48分)
穂高岳山荘(5:58)→(6:18)涸沢岳(6:32)→北穂高分岐(8:22)→(8:30)北穂高岳(8:51)→(10:49)涸沢(11:15)→横尾(13:07)→徳沢(13:53)→明神館(14:38)→(15:46)上高地バスターミナル