2016年7月19日(火)12:00

キタダケソウの咲き残りの最後の一輪を肩ノ小屋で見ることができた!

先週、行く予定だった北岳を雨で延期して、この海の日の3連休に、ちょっと天気は微妙だったが行くことにした。

 

実は、先月の八ヶ岳に引き続いて今回も一人じゃない。昨年、北アルプスで知り合ったSさんと一緒だ。彼女とは4月にまだ雪のある八ヶ岳に一緒に登るはずだったのだが、出発当日の未明に実家のある大分で起こった地震のため急きょ中止にしていた。そう、今回の相手は「彼」ではなく「彼女」だ。何やかんや、やっぱり女子と山に行くのはちょっと嬉しい。JR甲府駅で待ち合わせすると、彼女は爽やかな笑顔でやってきた。うん。やっぱり女子と行くのは楽しい。

 

 

1日目:

登山口行きのバスに乗り2時間ほどで北岳の登山口、広河原に着く。バスから降りると爽やかな風が吹き、雲の間から時折、青空も広がったが、いつもなら大樺沢の上にそびえ立つ北岳は厚い雲に覆われていて全く見えなかった。準備を済ませ、野呂川に掛かる吊り橋を渡り広河原山荘で水を補給して登り始める。今回の予定は大樺沢を歩いて二俣分岐で時間に余裕があれば、そのまま左俣から北岳山荘に向かい、無理そうだったら白根御池小屋に泊まり、翌日、北岳山頂を目指すというルート。

 

大樺沢を登る。昨年もほとんど同じ時期に北岳に登っているのだが、今年はやはり雪が少なく雪解けが早かったのだろう、昨年とは違った花々が盛りで、ずいぶん異なった植生だった。二俣分岐の手前で、遅い昼食を取るとすでに時間は14時に近く、北岳山荘に向かうには今のペースでは厳しそうで、また、見上げる北岳は相変わらず分厚い雲の中だったので、今日はこれ以上登るのはやめ白根御池小屋に行くことにした。

 

白根御池小屋に着くとテント場は既にテントでいっぱいだった。いいスペースを見つけるのは無理かなと探し回ると、白根御池の裏側の少し先に1人用のテントなら十分張れるだけのスペースがあった。静かで、東側が開けた林の間から鳳凰三山が見えるなかなか良いスペースだ。難点があるとすればトイレが遠いということくらいだろうか。持ってきたウィスキーを飲みながらテントを張る。時間も早く楽しいひと時。そうしているとSさんが小屋泊まりの準備を済ませてやってきた。すでに呑みながらキャンプの準備をしてる僕を見て笑っている。

 

テントを張り終わり、小屋の前のカウンタータイプのベンチに陣取りSさんと夕食にする。この小屋では、北アルプスの小屋のように生ビールを売っていたのでSさんと乾杯する。ジョッキで飲むビールはやはり美味い。数時間前に昼食を食べたばかりでさすがにお腹が空いてないのでつまむ程度に食べる。Sさんと山の話が弾む。彼女と会うのは昨年出会った雲ノ平を含め3回目だが、あまり多く話すタイプではないように思えたのだが、途切れることなく会話が続き、酒も進んで、とても楽しい夕食の時間を過ごすことができた。そうしていると次第に辺りが暗くなり始めた頃、稜線付近の雲が一気に流れ去り北岳の山頂が姿を現した。夕暮れの青空にシルエットで浮かび上がった北岳がとても美しかったが、今回の山行で、あとにも先にも北岳の姿を見たのはたったこの数分間だけだった。

 

小屋泊まりのSさんと分かれて、ほろ酔い気分でテントに戻る。何だかまだ寝る気にはならなかったので、テントのすぐ脇にある平たい大石の上に横たわって空を見上げる。星空が出ていれば最高だろうなぁと思いながらも森を吹き抜ける夜風がとても心地いい。何気なく持っていたスマートフォンでFMラジオの電波を探してみると1チャンネルだけ入った。東京FMの篠原ともえの東京プラネタリーカフェという番組だった。今、見上げる先に星空は見えないが、星をテーマにした番組内容と落ち着いた音楽が耳に入ってきて、街の喧騒を離れるために山に来る理由もあるかも知れないが、ストイックではない、こういう山旅で、ちょっと街の匂いを感じるのも悪くないなと思った。

 

夜半過ぎに目が覚めるとテントに打ちつける雨の音が聞こえている。外は雨が降っているようだ。この雨の音を聞きながらテントの中でシュラフに入ってぬくぬくしている時間がとても好きだ。何だかここだけ守られているという気持ちになり妙な安心感がある。

 

 

2日目: 

朝5時半、小屋の前でSさんと待ち合わせる。北岳は雲に覆われたままだが、鳳凰三山方面は雲が多いながらも山頂が見え、時折、明るく晴れ間も広がり今日の行程に期待を寄せる。 

 

草すべりから登っていく。小屋からの突然の急登で息があがる。大樺沢沿いでは、あまり見かけなかったシナノキンバイをあちらこちらで見かけるようになる。下山してくる登山者と言葉を交わすと「今日は絶景です!」というので、期待を寄せて「じゃお花畑もきれいだったでしょう?」というと「いやお花畑は...」と言う。

 

森林限界を抜け、昨年、花畑が一面に広がっていた右俣と草すべりの合流点あたりには、昨年のような圧巻の花畑は残念ながら見られなかった。昨年のこの時期に満開だったシナノキンバイとハクサンイチゲの花畑は、すでに時期を過ぎていたようだった。ただ、昨年とは異なった種類の花々が地味ではあるが咲き誇り、昨年、見ることができなかった種類の花々をいくつも見ることができた。

 

朝の期待とは裏腹に辺りは次第に濃い雲に覆われ始め、稜線に出ると仙丈ケ岳方面から霧雨状の強風さえ吹き始めた。気温も下がり、咲き誇る花々を横目にあまりゆっくり写真を撮っている気にもならず北岳 肩ノ小屋に急ぐ。

 

Sさんと山頂まで登るかどうか相談する。僕としては北岳にはすでに二度登っているので、こんな何にも景色も期待できない状況の中、わざわざピークハントする必要もないので肩ノ小屋までで十分だったが、Sさんは初めての北岳ということで、できれることなら行きたそうな感じだった。ただ、僕らは今日中に下山しなければならず、バスの時間のことを考えると肩ノ小屋で天気の様子を見て、晴れそうだったら登ろうかということはできなかった。

 

肩ノ小屋で、冷える中、暖かいおしるこを食べる。まだ8時半を過ぎたばかりの時間だが、今日はここまでだと決めると時間に余裕がある。そう言えば、肩ノ小屋のテント場に下る脇に移植したキタダケソウがあると言うのをどこかのウェブサイトで見たなと思い出した。今年は花が早くキタダケソウは早々に終了したという話だったので、まぁ葉っぱでも残ってないかなと探してみると、思いの外、すぐの所にキタダケソウ独特の形をした葉っぱを見つけた。キタダケソウの葉に間違いない。僕はSさんを呼んで「多分、これがキタダケソウの葉っぱだよ。また来年見に来るしかないね。」と話した。テント場の周辺には、その他にミヤマオダマキ、クロユリ、ハクサンイチゲ、イワベンケイ…などたくさんの花が咲いていた。

 

十分に花々を満喫して下山する準備をしていると、Sさんがニコニコして僕を呼んでいる。何だか僕もニコニコして応えるとキタダケソウが残っていると言う。どうやら小屋のスタッフらしき人に聞いたら、まだ残った最後の一輪の在りかを教えてくれたと言う。さすが女子!こういう情報の入手は間違いなく、若くてきれいな女子の方が有利だ。場合によっては聞かなくとも教えてもらっている時もある。女子と行く山旅には、おこぼれを頂戴できるというメリットもあるようだ。

 

Sさんに付いて行くと、先ほど残った葉っぱだけを見つけた所から2メートルほど横に奇跡的に残っていたキタダケソウの最後の一輪があった。花びらが2枚はずれ、さすがにすでに完璧な花形ではなくなっていたものの、まさかこんな時期に見ることができるとは思ってなかったので、花を目の前にしてとても感動した。来年はもう少し早い時期に来て、移植でもない完全に自生のキタダケソウを見たい。

 

9時半、下山開始。登りより幾分風は弱くなった感じはするが、下山を始めると今度は小雨が降り始め、雨粒は次第に大きくなっていった。レインウェアを着込んで、さすがに雨の中、剥き出しではまずいと思いミラーレスカメラをザックの中にしまった。Sさんは、下りが遅くて苦手と言っていたが全く問題ないペースで白根御池小屋に戻ってきた。

 

少し小降りになったのでテント場に戻りテントを解体し始める。一体どいいう天気の意地悪だろうか?テントを片付け始めると雨足が強まり、ずぶ濡れのテント撤収となってしまった。テントに付いた水分も払い落すことができずザックに放り込み、その他、色んなものも水気を含んでしまい、来たときよりもザックが1.5倍はあるんじゃないかくらいに重くなった。

 

12時40分、白根御池小屋から下山開始。重いザックの重量に加え、雨に濡れて足場が滑りやすいので慎重に下る。下りれば下りる程、気温も上がり、広河原に付いた頃にはヘトヘトになった。

 

広河原から甲府行きの最終バスの1本前の便に乗って、芦安で降り温泉に入り、再び甲府駅行き最終バスに乗って帰る。車中、何度か南アルプスを振り返ったが一向に雲がなくなる様子はなかった。やっぱ山登りは晴れてる日の方がいい。それでも、野外で寝て、ビール飲んで、語って、たくさんのきれいな花を見ることができて満足した。

 

甲府発新宿行の特急かいじに乗り込み、Sさんとビールでお疲れ様の乾杯した。その後、車中でもずっと山の話で盛り上がった。何やかんや会話にあふれたとても楽しい山旅だった。

ルートマップ

データ

  • 入山日: 2016年7月16日(土)
  • 下山日: 2016年7月17日(日)
  • 登山エリア: 南アルプス
  • 登山ジャンル: ピークハント登山
  • 登山スタイル: テント泊
  • メンバー: 2人
  • 天候: 16日(土)曇り 17日(日)曇りのち雨
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